Book interview

プロフィール
道尾秀介 ● '75年東京都出身。'04年『背の眼』で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞しデビュー。'07年『シャドウ』、'09年『カラスの親指』、'10年『龍神の雨』『光媒の花』などで名だたる文学賞を受賞。'11年『月と蟹』で第144回直木賞を受賞。

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借金が元で愛娘を失い、他人の命まで奪ってしまった46歳の武沢竹夫は、詐欺師となって生きるうち、同じ詐欺師の中年男・入川鉄巳と出会いコンビを組むことに。ある日、二人の暮らす一軒家のアパートに、若い姉妹とその用心棒を名乗る青年が転がり込んでくる。さらに野良猫が迷い込み、5人プラス1匹の奇妙な共同生活が始まった。

映像化不可能といわれた小説が原作者も納得の映画に!, 道尾秀介

小説には地球より大きなものが入る。

--- 直木賞をはじめ数々の文学賞に輝く文芸界の若き俊英、道尾秀介氏が'09年に発表したミステリ小説『カラスの親指(by rule of CROW's thumb)』が映画になる。その公開を前に、道尾さん本人にお話を伺った。

「最初に映画化の話を聞いた時、はたして映像化が可能かと考えました。僕は常々“映像化できない”という前提で小説を書いているので。しかし、本作に限っては、映像化に違和感がありませんでした。

 一番の決め手は、主役を演じるのが阿部寛さんだったことです。僕のなかで阿部さんと詐欺師の武沢が重なって、これはおもしろそうだと直感しました。武沢の相棒・入川役が村上ショージさんだという点も魅力でした。“よくこの配役を思いついたなあ”と驚く反面、“その手があったか!”と納得したのを覚えています。配役自体がこの作品の仕掛けとして働いているというのが、すごく計算されているなと感心しました」

--- 映像化にあたっての要望は?

「タイトルさえ変えなければ、何をしてもらってもOKと監督には伝えました。
 僕のなかでは、小説版と映像版は別物です。一番美しい景色も音楽も、僕は小説のなかに存在すると思っています。どんな映像や楽器を駆使しても超えることができないと信じていなければ、怖くて小説なんて書いていられません。映像が一瞬で伝える情報量は小説の比ではありませんが、2時間という時間内で伝えられる情報量には限りがあります。けれども、小説は無限です。小説には地球より大きなものが入るんですよ」

--- 完成した映画を観た感想は?

「試写が始まった瞬間から惹き込まれて、泣いたり笑ったり。自分の小説うんぬんを忘れて、一観客になっていましたね。結果的に原作の世界をほぼそのまま再現してあって、監督のこの作品への愛を強く感じました」

「家族」というテーマに真正面から対峙した。

--- 本作が生まれたきっかけは?

「ある取材で、“なぜすべての作品で家族がテーマになっているのか?”と質問されたことがありました。僕自身は無意識だったのですが、言われてみれば確かにそうだと思い、“それなら真正面から家族をテーマに書いてみよう”と取り組んだのが『カラスの親指』です。

 本作では、ワケありの5人が一つアパートに集まり、ある大掛かりな詐欺へと乗り出します。その過程で各人が己と向き合い、残酷な過去と折り合いをつけて、人生の再出発をはかるという物語です。僕がミステリ的なものを書くのは、最後にすべてのピースがそろった時、はじめてテーマが浮かび上がるという仕掛けが好きだから。他人同士の5人が最後にどんな“家族”になるのか、楽しみにしてください」

--- 小説版と映画版を両方楽しむコツは?  

「小説版を知り尽くした僕でも映画版は心から感動できました。だから、小説が先でも映画が先でも、絶対にどちらも楽しめると思います。本作は僕の作品にはめずらしく老若男女が楽しめる作品になっているので、すべての人に両方オススメできます」

取材・文/松本理惠子 撮影/木村利美