『ヴィヨンの妻 〜桜桃とタンポポ〜』松たか子 インタビュー 2/2

松たか子真奈美

「夫婦は死ぬまで他人ですが、最も近しい存在。面白いですよね」

松たか子が、『ヴィヨンの妻 〜桜桃とタンポポ〜』で長編映画初主演を果たした。本作は、今年生誕100周年を迎える文豪・太宰治の同名短編小説を映画化した夫婦のドラマで、松は名優・浅野忠信と夫婦を演じ、道楽夫を全力で支えながら戦後の激動期をしなやかな強さで生き抜く妻・佐知を好演した。女優として新境地を開拓した松に、浅野との共演の感想、女性や夫婦の本質など、さまざまなテーマについて聞いた。

1 / 2


佐知は、決して多くを望む女性ではないと思いました

松たか子

―― 大谷の妻である佐知という女性を、どのように受け止めて演じましたか?

:あまり物事を欲張らない女性だと思いました。家族3人で暮らしていければそれでいいというつつましやかな性格で、夫をたてる自分に酔っているわけでもない。前向きだけどもけなげで、カラっとしている感じがします。彼女が働きに出てお金を稼いだときに、新たな自分の価値に目覚めますよね。佐知にとってはすごい大きな体験で、自分もできるんだと思ったはずです。彼女にとって世界が広がったとも思います。でも、自分が戻る場所は決まっていて、芯(しん)が強くしっかりしていますよね。決して多くを望む人ではないと思いました。

―― 佐知を見て思ったのですが、女性は自分の価値を知ると瞬間的に自覚して向上する性質がありますよね。

:わたしもそう思います(笑)。とても不幸な出来事に遭っても、ほんの一瞬でも可能性や希望があれば、そっちにシフトして、新しい色を塗り重ねていける生きものだと思います。浅野さんとも話していたんですが、男性は先のことを考え過ぎてダメなところがある気がするけど、女性は一瞬を強く生きることができる。これは男女が永遠に平行線を歩いていく理由かもしれませんね(笑)。

無難にいくより、面白い場所に飛び込む身軽さを持っていたい

松たか子

―― 夫婦間の間柄についてはどう思いますか?

:夫婦は死ぬまで他人ですが、一緒に生きていくのは不思議だと思います。子どもはともかく、夫婦は一生他人のまま! でも、最も近しい存在。面白いですよね。

―― ところで、今回は長編初主演ということですが、改めていかがでしょうか?

:一生懸命に頑張ったつもりですが、撮影中はいつも通りだったと思います。もちろん一つの仕事として、ちょっとでもいい結果を残せるように頑張ることは変わりませんが、例えば今回は浅野さんがすてきな人だったことが自分の喜びですし、作品全体にすてきな空気が流れているので、そのために自分ができることを精いっぱいやりたいです。そういう意味では、いつもと同じです。

―― 最後に、今後の仕事上の抱負をお願いします!

:せっかく女優業をやっているので、おかしなことやヘンなこと、そして面白いことをやっていきたいです。いつまでこの仕事を続けられるのかわからないし、いつまで自分が生きられるのかもわからない。だとしたら、無難で何となく予測がつく方向に行くよりは、不思議な、面白い場所に飛び込んでいく身軽さを持っていたいですね。ただ、わざわざ刺激を求めているわけではないですよ(笑)。焦らずにいい作品に出会いたいですね。




取材・文:鴇田崇 写真:秋山泰彦 編集:シネマトゥデイ

MOVIE INFO

解説

太宰治の同名短編を「隠し剣 鬼の爪」の松たか子と「母べえ」の浅野忠信主演で映画化。放蕩者の小説家と、そんなダメ夫をしなやかな逞しさで包み込んでしまう妻が織りなす心の機微と愛の形を繊細に描き出す。監督は「遠雷」「サイドカーに犬」の根岸吉太郎。第33回モントリオール世界映画祭でみごと監督賞を受賞。

インタビュートップへ