エンタメコラム

バックナンバー

第23号

密やかに育まれた、危うくも甘美なポップ・ワールド
ラナ・デル・レイのデビュー・アルバム『ボーン・トゥ・ダイ』について

いま世界でもっとも注目されている女性シンガーソングライターの新星、ラナ・デル・レイ。


ニューヨーク州のレークプラシッドで生まれた25歳の彼女は、先日リリースしたデビュー・アルバム『ボーン・トゥ・ダイ』でいきなり全英チャート1位を獲得しました。3月に予定されていた“プレミア・ショーケース”と題された初来日公演は、予想以上の注目度の高さが様々な側面でキャパシティー・オーバーを起こして、残念ながら中止となってしまいましたが、彼女の音楽性は“やはり生で体感したい”と思わせるものがあります。

 

彼女に世界中の音楽リスナーからの視線が集まったのは、「VIDEO GAMES」という楽曲のミュージック・ビデオがきっかけでした。閉ざされた世界で“最高のあなた”とビデオ・ゲームに興じる描写を、荒涼とした音像にメランコリックなシンフォニーを浮かべながら、この世でもっとも愛しいと感じる時間こそが、どうしても埋められない孤独を突きつけられる残酷な刹那であるかのように唄う楽曲。

さらに、音楽に刻みつけた“記憶の断片”を気だるくも美しいノスタルジアをもって紡いだそのビデオの中毒性は抗いがたいものがあります。

 

そして、謎多き彼女がその全貌を明らかにしたアルバム『ボーン・トゥ・ダイ』は期待以上のものでした。ヒップホップ的なブレイクビーツとサンプリング音をベースに構築したトラックに、映画音楽然としたムードを演出する重厚なストリングスや奥行きのあるシンセを同居させながら、時に劇的に転調するサウンド群は、ラジカルなポップ・アートとしての魅力に満ちています。

そこに“いつかの自分”に憑依するように変容するヴォーカル・アプローチと声色で、忘却し得ない情景を鮮烈なセピア色でフラッシュバックさせていくラナ・デル・レイの歌……。

彼女は自らの歌を“ハリウッド・ポップ/サッド・コア”と称しています。
ハリッド映画のようにきらびやかで、それと同時にその裏側をえぐるような深い悲しみを内包しているラナ・デル・レイのポップ・ワールド。ぜひ堪能してみてください。そして、来日公演の再決定を待つ!

写真

【ライター紹介】
三宅 正一~取材にライブに子育てに。音楽を中心にせわしない日々を送るフリーライター~
1978年生まれ、東京都出身。雑誌「SWITCH」、「EYESCREAM」の編集を経て、2005年にフリーライターとしての活動を開始。音楽を中心に、カルチャー全般の執筆を手がけている。