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第49号

多くの人に届くべき、小さな歌の集合体
七尾旅人『リトルメロディ』について

既にリリースされているが、七尾旅人のニュー・アルバム『リトルメロディ』がすばらしい。震災以降の日本をつぶさに見つめているシンガーソングライター(以下SSW)だからこそ、編むことができた16曲。歌の生気が少しずつ、丁寧に、確実に、市井とポップスが形成する美しい輪郭を描き直していく。

 

鋭い銃声のようにも、重い扉が閉まる音のようにも聴こえるSE。すべてをかき消すホワイトノイズ。無の叫びを引き伸ばす信号音。咳をする男。「きみのそばへ」と名づけられたこのイントロダクションから、密やかで牧歌的なアコギのアルペジオと単音中心の静謐なピアノ、魂鎮めのようなコーラスが、両の手のひらほどの旋律を支える「圏内の歌」へ。市井の息づかいをつぶさに捉えるSSWは、リスナーの手を取りながら、今もっとも過酷な状況にある人々と土地のもとへ降り立つ。そこにある黙殺させてはならぬ願い、願い、願い。小さな歌の欠片は、深い悲しみの果てに虚無のブラックホールに吸い込まれそうになる苛烈な現実を直視し、抗い、震える。しかし、一歩ずつ屋内から屋外へ踏み出し、忘れられない恋も乗せて、ファンタジーへと続く物語を描いていく。

 

そうやって小さな歌の塊は、ポップスの原風景を映し出しながら、小さな希望が灯る歌「リトルメロディ」にたどり着く。七尾旅人の魂が、はっきり聴こえる。何も言わずに触れてみてください。

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【ライター紹介】
三宅 正一~取材にライブに子育てに。音楽を中心にせわしない日々を送るフリーライター~
1978年生まれ、東京都出身。雑誌「SWITCH」、「EYESCREAM」の編集を経て、2005年にフリーライターとしての活動を開始。音楽を中心に、カルチャー全般の執筆を手がけている。