解説
女性殺害事件の容疑をかけられた脚本家のディクソンは、隣人ローレルの証言により釈放される。2人は愛し合うようになるが、やがてローレルはディクソンの心にひそむ狂気を知り、彼に対する疑念をつのらせて……。 ニコラス・レイ監督による傑作映画。

まとわりつく翳り ★★★★☆
投稿者:銀の粒 2009年2月11日
友人の刑事宅に遊びに行ったハンフリー・ボガート扮する脚本家が,余興として自ら犯人の疑いをかけられている殺人事件の顛末を推理する場面。つい説明に熱が入りその饒舌に酔うかのようなボガー トの顔をスポットで照らすライトが異様な明るさを増すとき、観る者はここで初めて <もしかしたら本当にこの男が下手人か> とも疑い始める。いかにも50年代のハリウッドらしい映像ルックスの手練手管。
この頃、自らのプロダクション(サンタナ・プロ)を立ち上げてある程度を思い通りに主演映画を作れるようになったボガートだからこそ、この何とも知れぬ翳りをまとった主人公を演じられたのだろう。監督をまかされたのがニコラス・レイと云うのだから、そのキャラクター描写のネジレ具合に念が入っているのもうなづける。主人公のアリバイを証明するヒロイン(グロリア・グレアム)はいかにもファムファタール的風貌で登場するので、最初は彼女が彼を手玉に取るような展開になるのかなと思いきや、逆に好意を寄せた男の直ぐ発火しやすい凶暴性に不安と恐怖を抱くことになる。このヒロインの心理の動きに先行して、冒頭に述べたエピソードが置かれているは常套手段といえなかなか巧みな構成ではある。観る者は、ヒロインの視点に同化しつつ主人公の脚本家の内部に巣食う異様さに向き合うことになるのだ。
本作は異色のフィルムノワールとして評価されているようだけど、併せて自己破滅型主人公の暗澹たる悲恋物語とも取れようか。ヒロインの元を去るボガートの後ろ姿を捉える画面には例えようもなき憂愁がただよう。興行的には決して成功したとは云えぬボガートの独立プロが、当時のハリウッドの先鋭的な部分が感じていたであろう<ある種の暗さ>に敏感であった事は記憶されていいと思う。
ボギー、男の中の男 ★★★★☆
投稿者:モリカ 2008年2月7日
「ハンフリー・ボガートってこんな芝居もできるんだ」という嬉しい驚きが最初の感想。“こわもての無骨男”というイメージが完全に覆された感がある。“こわもて”も“無骨”もデリケートな内面を相手に気取られないためのポーズ(こちらにはしっかり見えているのだが)だったのだと、やっと合点が行った。
本作では傲岸な誇りとピュアでセンシティブな感性とが同居する、脚本家の役。どこにいても、何をやるにも、どう行っても、孤独にしか存在し得ない“業”のかたまりのような男を、これ以上ない形で好演していた。この役をこんな風に演じられる役者はもう現れないだろうとさえ思わせられる、極めつけに説得力のあるラストの孤独感。正直、しびれた。
ボギー、やっぱりあんたは男の中の男だ。
私的感想 ☆☆☆☆☆
投稿者:コリンスキー 2007年10月18日
監督ニコラス・レイと女優グロリア・グレアムはこの時、夫婦であった。
本作は、ニコラス・レイの私小説的作品とも言われる。
彼女のお陰で嫌疑も晴れ、二人は愛し合うようになるが
ボギー演じる男(色々な意味で切れ者・シナリオライター)が
粗暴な本性を見せ始めることで彼女(グロリア演じる女優の卵)は疑心を抱く。「やはり彼はクロ?」
そんな空気を察し彼のイライラは更に募り潜在的な暴力が顔を出す。
その半端じゃないキレ方に、ひきつるグロリアの可愛い顔。
自伝的要素を色濃く反映するとの評説に思わずうなずく瞬間だ!
あるいは、こんな見方も可能だろうか。
N・レイの私映画という通説を遥か飛躍し
ただごとじゃない、この緊張感の背景を
当時のアメリカ国家の姿そのものと捉え
戦勝国アメリカが抱えた大戦の後遺症と冷戦下の
脅威、不安を、このシナリオライターの頭のなかに
置き換えたと。
また、警察や周囲からの疑惑の目は、映画作家達に向けられた
レッドパージのそれともとれる。
レイは当時RKOと契約していた為、ハワード・ヒューズの政治力により
赤狩りの目から逃れられたという。
フィルム・ノワール・ヒロイン=グロリア・グレアム
結婚歴4回。 2人目の夫・ニコラス・レイ
4人目の夫・ニコラス・レイの息子
ニコラス・レイのイライラも解る気がする。
プライドとロマンスは両立しない ☆☆☆☆☆
投稿者:忙中有閑 2006年12月11日
「よふかし」さんのレビューを読んで借りました。鑑賞後他の二人のレビュアーの方(「留美子」さんと「estis」さん)のも読んで、考えさせられましたね。この映画が「ミステリーでもラブストーリーでもない」と仰るestisさん、「なんか中途半端」で「主人公に感情移入できない」留美子さん、「二人の精神的な葛藤のドラマ」と絶賛されるよふかしさん。それぞれの意見にどれも賛同してしまいます。
私は男ですから、女主人公の最初のほうのカッコ良さと終盤のメロメロの不甲斐無さのギャップにはそれほど目くじら立てたりしませんが、男のほうのキレかたにはとても「感情移入」できませんでした。確かにこの主人公の人物設定は「独創的で知性の高い、それだけにプライドも高い」芸術家ということになっているので、「遂に巡り合った運命の女性」への期待が膨らむのも当然、というのが作者のスタンスなのでしょう。しかしこの男のキレかたはあまりにも甘ちゃん過ぎて、ハードボイルドの典型で通っているボガート、それも世の中知り尽くした中年男としては不自然過ぎるのが原因ではないかと思われます。
思うにサスペンス、ミステリーと恋愛、ロマンスは相乗効果を生むこともあり、相性が良いのですが、「プライド」というのは根本的に恋愛とは相容れないようです。プライドを凌駕出来ないような恋愛は恋愛とは呼べず、ましてロマンスにはならない。プライドの高い主人公が、それを乗り越えるような大恋愛をして初めてロマンスになる。だからこの映画は元々ラブストーリーではなくて、プライドと疑念、裏切りの「葛藤のドラマ」そのものなのだと思います。


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