- そしてもう一度夢見るだろう
- > 解説
解説 - そしてもう一度夢見るだろう
解説
この匂い、この色、この響き、どれもが懐かしく、それでいて初めて触れる喜びを寄り添わせるものばかりだ。それらの歌たちに、時間の澱のようなものが少しずつはぎとられていく。それと入れ替わるように、胸の奥深いところで眠っていた情感が淡く立ちのぼりはじめる。その瞬間、ぼくは、ポップスの神秘をも覗き見るのである。特別新しいことが提示されているわけではない。むしろ、どこを切り取っても松任谷由実、ユーミンの愛称で親しまれてきた老舗ブランドの新しい作品以外の何ものでもない。言葉遣いのひとつひとつ、メロディの一節一節、時折覗かせるヨーロピアン嗜好にクラシカルな展開、加藤和彦との共演にしても、この2人だからこその遊び心のあるロックンロールに仕上がっている。お洒落で、優雅で、だからどうしたという潔さが、何とも気持ちいい。青春の甘酸っぱさを漂わせる(3)に至っては、この種の傑作を数多く残してきた自らに挑戦状を叩きつけるかのような素晴らしさだ。倉庫を整理していたら、20年前の曲がひょっこりでてきた、そういう話をでっちあげられたとしても、ぼくは信じたと思う。もちろんそんなことはなく、これは、活動歴35年を越える人が、35作目のアルバムとして完成させた新作だ。しかも、眩いばかりの青春を一瞬にして甦らせ、我々の胸を切なく湿らせる。そこに、この人の素晴らしさがある。その(3)に限らず、彼女はここで過去を懐かしんでいるのではない。ここから伝わってくるのは、元通りになったり、取り戻したりできない季節が人生には必ずあるが、たとえそうでもその時間の欠片のどれひとつとして価値のないものはないという、生きることへの肯定だ。そしてそれこそが、彼女が35年以上もの間歌い続けてきたことではなかったか。もしも、この日本のポップス界屈指のブランドにまだ触れたことがない人がいたとしたら、過去の名作のどれでもない、この新作を迷うことなくぼくは薦めるだろう。 (天辰保文)
>※特定の商品の解説・あらすじを表示しています。





















